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名古屋地方裁判所 昭和46年(ヨ)616号 判決

申請人

石田祥夫

右訴訟代理人

山本秀師

外二名

被申請人

日本放送協会

右代表者

前田義徳

右訴訟代理人

松崎正躬

外三名

主文

一、申請人が、被申請人に対し、昭和四四年一二月八日付休職処分の付着しない労働契約上の権利を有することを仮に定める。

二、被申請人は、申請人に対し、金一、五〇〇、〇〇〇円および昭和四八年四月一九日以降毎月二〇日限り金三七、六八〇円を仮に支払え。

三、申請人のその余の申請を却下する。

四、訴訟費用は、これを二分し、その一を申請人の負担とし、その余を被申請人の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、申請の趣旨

(一)  被申請人が、申請人に対し昭和四四年一二月八日付でなした休職処分の効力は本案判決確定に至るまで仮に停止する。

(二)  被申請人は、申請人に対し、金三、四八〇、四七二円およびこれに対する昭和四八年三月二一日から仮に支払済みに至るまで年五分の割合による金員ならびに同年四月から本案判決確定に至るまで、毎月二〇日就業規則その他の定めるところにより算出された申請人の賃金および右賃金を基礎として算出される毎年六月、一二月に各支給されるべき夏季一時、年末一時金の各金員を仮に支払え。

(三)  被申請人は、申請人を就業規則その他の定めるところにより就労させなればならない。

(四)  訴訟費用は、被申請人の負担とする。

二、申請の趣旨に対する答弁〈省略〉

第二、申請の理由

一、被申請人は、公共の福祉のためにあまねく日本全国において受信できるように放送を行うことを目的とし、肩書地に主たる事務所を、名古屋市ほか六都市に中央放送局(昭和四六年七月一日以降は機構改革により地方本部と改称)を、それぞれ有する特殊法人である。

二、申請人は、昭和三八年三月一橋大学社会学部卒業後同年四月被申請人に職員見習として入社し、同年八月被申請人中央研修所における研修を終えた後名古屋中央放送局編成部編成課に勤務し、同年一〇月職員となり、昭和四一年四月一日より同放送局制作部に勤務していた。

三、申請人は、昭和四四年一一月一六日佐藤訪米阻止闘争(以下「本件闘争」という。)に参加したが、東京都大田区池上駅付近で警察官に逮捕され、勾留されたまま、同年一二月八日公務執行妨害罪、兇器準備集合罪で東京地方裁判所に起訴され、昭和四五年三月二七日保釈された。

四、被申請人は、申請人に対し、昭和四四年一二月八日付で被申請人職員就業規則(以下「就業規則」という。)三九条一項一号に基づき申請人を休職処分に付する旨の意思表示(以下「本件処分」という。)をなし、右意思表示は同月二〇日ころ申請人に到達した、〈中略〉

第四、被申請人の主張

一、申請人が本件処分当時勤務していた制作部は名古屋中央放送局(前記機構改革後の名称は中部本部)が担当する番組の企画提案から制作実施、事後処理に至る一連の業務を所管し、本件処分当時「庶務・効果」、「教育」、「農林水産・科学産業」、「教養・家庭」、「芸能」の五班(昭和四五年四月以降は「庶務・効果」と「芸能」の二班が一班として「芸能、庶務・効果班」となつた。)に分れ、六一名(部長一名、副部長四名、一般職員五六名)が所属していた。〈中略〉

四、(一) 申請人は、制作部「教養、家庭班」(昭和四三年八月以前は「教養班」)に属し、当初は「法律相談室」のFDを担当し、その後「郷土に生きる」、「趣味の手帳」、「高校生時代」等においてPDを担当したりしたが、昭和四三年四月より専ら「われら高校生」のFDまたはFDとなり、翌年四月より新番組「中学生群像」のPDを担当していた。

(二)(1) 「中学生群像」は、昭和四四年度国内放送番組編集基本計画中、「次代をになう青少年の人格形式と成長に資する番組を充実するとともに、青少年問題に対する一般の理解関心を高める番組を編成する」および「少年少女向けの番組については、豊かな情操と健全な精神を養うよういつそう充実に努める」との方針に基づき、名古屋中央放送局において制作された番組であつて、同年四月一二日第一回の放送を行なつてより昭和四七年三月二六日迄毎週日曜日午後一時五分から三〇分にわたり全国向けに放送されたものであり(その後は「中学生日記」となつている)、現実の中学生の生活に取材し、中学生の内面外面によこたわる様々な問題をドラマの形で提起し、「新しい中学生像」を追求しようとするもので、主に中学生を視聴対象としている。

右番組の視聴率は、昭和四四年七月1.4%、昭和四五年六月2.7%、昭和四六年六月5.3%であり、放送時間帯、番組の性質に照らし視聴率は非常に高く、視聴者も若年層を中心に高年齢層まで多岐にわたつていた。〈中略〉。

六、(本件処分に至る経緯)

(一)  被申請人と、申請人が加入している日本放送労働組合(以下「組合」という。)との間で締結された労働協約(以下「労働協約」という。)一九条の二は、「(一項)甲(被申請人をさす)は次の場合に限り従業員を休職させることができる。一、刑事事件で起訴されたとき。(二号ないし六号略)(二項)前項の休職の期間は第一号及び第二号によるときはその事件の係属中(以下略)」と、一八条一項は、「組合員の任地を異にする異動、休職、解雇及び賞罰について甲は事前に乙(組合をさす)に通知する。」と、労働協約末尾の覚書四は、「組合員の任地を異にする異動、休職及び解雇については、甲は事前に本人に通知する。」とそれぞれ規定され、就業規則三九条は、「職員が次の各号の一に該当するときは、休職を命ずることがある。(1)刑事事件で起訴されたとき。((2)ないし(8)略)(二項)休職を命じた職員には、職員として身分を保有させるが業務には従事させない。(三項)休職を命じた職員の給与については別に定める。」と、四〇条一項は、「職員の休職期間は次のとおりとする。(1)前条第一項第一号によるときはその事件が裁判所に係属中(以下略)」と、それぞれ規定され、賃金規程一三条は、「職員が欠勤、休職等のため欠務した場合の基準賃金は、次によつて減額した額とする。((1)ないし(3)および(4)(ア)略)(4)(イ)刑事事件の容疑者として逮捕されて欠勤したとき、または本則第三九条第一項第一号による休職のとき(基準賃金×40/100×欠務日数/所定勤務日数)((5)・(6)略)(二項)前項の所定勤務日数とは、その月の暦日から本則に定める休日を除いた日数とする。(三、四項略)」と規定されている。

(二)  申請人は、昭和四四年一一月一六日以降出勤していなかつたが、同月二四日提出された同人名義の欠勤願により同人が本件闘争に参加し、逮捕・勾留されたため出勤し得ないことが被申請人に判明し、次いで一二月九日ころ、申請人が「昭和四四年一一月一六日多数の労働者学生等によつて佐藤首相の訪米を阻止する目的を以つて行なわれた闘争に参加し、右労働者学生等が通称池上通の道路上において、警備の警察官らに危害を加える目的をもつて多数の石塊等を準備して集合した際、申請人はその準備を知つてその集団に加わり、更に同所附近において職務に従事中の警察官らに対し、多数の石塊を投げつけるなどの暴行を加えて警察官の職務の執行を妨害した」との容疑事実により兇器準備集合罪および公務執行妨害罪として同年一二月八日付で起訴されたことが判明した。

(三)  そこで被申請人は、前記労働協約一八条一項および覚書四に基づき組合に通知するとともに、申請人に昭和四四年一二月一二日付郵便にて本件処分を内示し、組合から異議申立もなかつたので、申請人に対し本件処分をなしたものである。〈後略〉

理由

一申請の理由一ないし四の事実および被申請人の主張一の事実は当事者間に争いがない。

二〈証拠〉によれば、次の事実が一応認められ、〈証拠判断省略〉

(一)  被申請人の放送番組は、放送系統別には全国中継番組とローカル放送番組とに、放送部門別には報道番組、教育番組、教養番組、娯楽番組とに、それぞれ区別されており、中部本中部本部制作部の前記五班は、各班に副部長を置き、庶務・効果班を除く四班は、更に担当番組類別に各グループに分れ、各グループ毎にチーフを置き、放送番組の制作業務を行なつている。

(二)  放送番組の編集は、放送法四四条の二に基づき作成される国内番組基準および同法四四条の四に基づき毎年度策定される国内放送番組編集基本計画(編成方針、放作時間等を盛り込んだもの)に基づいて行なわれる。

右基本計画は、各現場の重点施策案を番組総括センターでまとめ、経営委員会の議決を経て決定される。

基本計画が決定されると、それにともない放送番組の年間編成計画(放送番組時刻表、各番組の企画趣旨等を盛り込んだもの)が決定されるが、この際各地方本部に単位番組の提案が要求される。

(三)  番組決定に至る経緯

(1)  単位番組(枠となる番組のことでそれに基づく個々の具体的な放送番組は後記の個別番組である。)

制作部の各制作担当者は、自分の属している各グループにおいて従来からの単位番組の継続ないし新しい単位番組の検討を行ない(このグループミーティングは非公式なものであるが副部長が出席することもある。)、各班の提案会議(副部長、班長、班員全員出席)において、右検討した単位番組を提案し、そのねらい、作者、、出演者、予算等を説明する。

副部長等出席者は、右提案に対し助言や指導を行なつたりして、副部長が班としての提案を決定する(決定しきれないときは複数のまゝのこともある。)。

右決定された提案は制作部の提案会議(部長、副部長、各班のデスク、各番組のチーフが出席)に提出され、他の班の提案との調整や番組の検討等がなされ、部長が部としての提案を決定する。

右提案は、単位番組提案票に記載され、番組委員会(地方本部の提案会議で部長以上が出席)に提出され、そこで各地方本部の提案として決定されたものは放送総局番組総括センターへ提出される。

右センターは、各地方本部の提案をまとめ、番組編集会議の審議を経て編成計画原案を作成し(番組決定に必要な場合は番組の試作も行う。)、理事会の審議を経て決定される。

(2)  個別番組

個別番組は、月間編成であるが、個別番組の提案手続は右単位番組のそれとほぼ同じであり、個別番組放送日の約二ケ月前までに提案を求めるのが原則であり(以上の事実中個別番組は月間編成であるとの点を除くその余の事実は当事者間に争いがない。)、右提案は毎月の具体的重点事項を明示した月間編成重点事項に基づいて行われる。

(3)  班会で承認された提案中、定時番組の場合は九割がそのまゝあるいは若干の修正を経て承認され、残りの一割前後が予備提案の中から補充するか再提案を求められるにとどまつている。

特集番組の場合は、部の提案会議以降の段階で一割以上の番組が承認されず、試作番組の場合九割以上の提案が右以降の段階で承認されない。

(四)(1)  個別番組を提案した者は、番組制作担当者とし具体的な番組の制作を行なう。

個別番組はドラマのように複雑な制作技術を要求されるものからスタジオ内での座談を中心とした比較的制作技術の容易なものまであり、通常制作部に配属されると一年位マネージメント、FD等をやり、先輩PD等の意見をもとに副部長がPDへの昇進を決定するのであるが、制作技術の容易な番組においては、配属後二、三ケ月でPDとなる場合もある。

PDは、被申請人全体で千数百人いる。

(2)  ドラマ番組を例にとるとPD業務は次のとおりである。

(イ) まず、PDは、作者に番組の対象、ねらい、テーマ、内容等を説明し、必要と思われる資料を提供し、場合によつては作者と同行取材し、番組のイメージに副う脚本を書いてもらう。

なお、新しい作者を用いる場合とか、番組の提案趣旨が明確でない場合は、シノプシス(梗概)を作成してもらうこともある。

(ロ) 次に、PDは、脚本を印刷した台本に基づき大まかな演出プランを決め、番組収録予定日から逆算した制作予定スケジュールを設定し、配役(連続ものはレギュラーが決まつていたり、他の担当者もいるので担当者同士が相談したりする。一回だけの役はそのPDが決める。)、ロケーション、音楽等の録音の各打ち合わせ等を行い、デザイナー等美術係との打合わせに基づき舞台装置その他の制作を依頼し、美術係より提出されたセットプランに基づきコンテを作成する(講座番組、簡単な番組は別としてコンテにPDの個性がでる。)。

(ハ) 通常本番前三、四日間一日平均三、四時間稽古を行なう。

PDは、まず自分の演出と番組のねらいを俳優に説明し、本読みを行ない、次に立稽古を行い俳優に演技指導をし、動き、セリフ、カメラの動きを呑み込ませ、本番前日にはセットを立ててドライリハーサルを行なう。

PDは、右稽古に先立ち、技術スタッフに演出の意図、カメラ割り等を説明したり、必要な打ち合わせをして照明、技術の準備をする。

本番の日はカメラを通してのリハーサルを二回程行なうが、その間PDは副調整室にいて、スタジオ内にいるFD(演出助手で、PDの手足としてPDを補助する。)を通じ俳優に動きの指示を行ない、各スタッフにも指示を行ない、画面を見ながらコンテの順序に同時編集の指示を出し、一つの画面と音とに構成する。

本番は、番組をいくつかのカットに分け、各カット毎にVTRに収録する形で行なわれる。

本番終了後、PDはこのVTRを編集して一本の放送テープにまとめ、音入れを行ない、完成試写を行なつて番組制作を完了し、送出担当者に右テープを引渡す。

(ニ) 脚本の打ち合わせから番組制作終了まで約一ケ月を要し、FDは出演交渉、稽古等の段階から番組制作に参加し、演出等につきPDに助言することもあり、連続番組の場合は制作担当グループの中でPD、FDが自由に意見交換をすることもある。

(3)  ドラマ以外の番組は、番組収録の日まで一人のPDがフィルムの編集効果音の作成、美術セットの調達、スチール写真や資料の整理、出演者との打ち合わせ、台本の作成、スタジオ用員を確保して収録日に他のプロデューサーがつき技術スタッフ、出演者等と最終的打ち合わせをしてテスト、本番を行なう。

(五)  制作過程におけるPDと管理職との関係

別紙二記載のとおり制作の各過程の殆んど(対部関係、対他部関係、伝票を要するもの等が中心)において決定権者が部長ないし副部長と定められており、また個別番組制作の最終的責任者は部長である。

従つて、PDは右各段階で右決定権者の監督、指示を受けることとなる。

しかしながら、部長副部長指揮下のPDは多数存し、また担当番組も多数存するため、部長らも番組制作の全過程についてまんべんなくPD業務を監督することは不可能であり、番組制作のポイントを中心に行なうのが実情である。

即ち、右監督・指導は、当該番組が放送法、国内番組基準および番組編成計画に従つているか否か、番組制作技術等が適切であるか否かを考慮し、台本制作過程、本番を中心にして副部長が主に行なう。

部長は台本決定権を持つており、副部長とともに台本を検討し、台本が右基準等に適合していないと認められるときは台本内容の変更、制作中止を命ずることがある。

本番の際は、副調整室に副部長が立会い、PDの演出上の相談に応じたり、必要な指示を与えたり、他部や他の職員等とのトラブルの折衝に当つたりする。

部長は完成試写の決定権を持つており、番組の一部をカットしたり、放送延期、放送中止を決定することもあり、また次回の制作に向けての包括的注意を与えたりする。

一方被申請人の一般職は後記のとおりA級ないしC級に分れており、右に応じPDが存在する。

PDがA級の場合はまだ技術が未熟であり先輩PD等の補助を要する段階であり、B級はPDとして一本立ちする段階であり、C級はチーフまたはデスクとして他のPDを指導して行く立場にある。

従つて、部長らの監督、指示もPDが右のどの職級にあるかによつておのずから変つてくるのである。

三以上を総合するに、PD業務(提案段階での業務はPDたるべきものの業務であるが、以下これも含めた意味で使用する。)は、(1)提案段階においては、前記認定事実に照らし、明らかなように、提案が番組として決定されるまでには幾重もの機関を通過しなければならず、採用されない提案も存するわけであるから、提案段階における管理職のPDに対する監督は強固なものであるということができ、(2)番組制作段階においては、前記認定のとおり、担当番組自体が制作技術の容易かつ定型的なスタジオ座談的なものから複雑な制作技術を要するドラマ等まで副広く、PDとしての裁量を行使しうる範囲が担当番組自体によつて異つているのであり、また部長、副部長の監督・指導も番組制作の過程に応じ、PDの職級に応じ異なつているのである。

従つて、PD業務の業務の性格を一義的に規定することは困難であるが、全く上司の指示の下で機械的作業を行う単純定型的な業務ではないが、かといつて一定の独自の決定権を有する自己完結的独立した業務でもなく、右両名の中間的なものであり、上司の監督・指導の範囲内で一定限度の自己の裁量権を有し、番組に自己の個性を反映し得、かつその程度も担当番組の性格、PDの職級に応じ変化するという業務であるといえよう。

四(一) 被申請人の主張四、(一)の事実および同項(二)(1)中、「中学生群像」が名古屋中央放送局において制作された番組で、昭和四四年四月一二日第一回放送を行なつてから昭和四七年三月二六日まで毎週日曜日午後一時五分から三〇分にわたり全国向けに放送されたもので、その後は「中学生日記」となつていることは当事者間に争いがない。

(二) 〈証拠〉によれば次の事実が一応認められ他に右認定を左右するに足る疎明は存しない。

「中学生群像」は、昭和四四年度国内放送番組編成の基本計画の2「次代をになう青少年の人格形成と成長に資する番組を充実するとともに、青少年問題に対する一般の理解と関心を高める番組を編成する。」および右計画のテレビジョン放送番組編成方針の総合テレビジョンの「ウ項」(少年少女向け番組の充実)「少年少女向け番組については豊かな情操と健全な精神を養うよういつそうの充実に努める(以下略)」との方針に基づき、現実の中学生の生活に取材し、中学生の内面外面に横たわる様々な問題をドラマの形でとりあげ、新しい中学生像を追求しようとするもので、主に中学生を視聴対象としていた。

右番組の視聴率は昭和四四年七月1.4%、昭和四五年六月2.7%、昭和四六年六月5.3%であり、年令的には男女とも一〇代を中心に四〇代以上にも視聴されており、昭和四六年ごろはかなり視聴率の高いものであつた。

右番組は、教養・家庭班(一三名)の申請人を含む中学生グループ六名で制作されていた(右番組を教養・家庭班に属する申請人が制作していたことは当事者間に争いがない。)が、各個別番組は一名のPD(約三ケ月に二回の割合でPDとなる。)が提案から制作を担当し、他の者はFDとして制作に関与するものであつた。

昭和四四年四月から同年一二月まで二〇数本制作されたが、申請人はうち六本の制作をPDとして担当した。

通常の番組において氏名が放送されるのは「制作」として担当チーフプロデューサー(普通制作部長)名、「演出」としてPD、FD名、他に美術効果担当者名であり、「中学生日記」においても右と同様であるが、「中学生群像」の場合は単に「作者」と音楽担当者名のみが放送されていた。

五〈証拠〉によれば次の事実が一応認められ、右認定を左右するに足る疎明は存しない。

職員制度規定五条二項は「一般職は職務遂行能力の程度に基づきA級、B級およびC級に区分する。このうちA級およびB級については、職務遂行能力の性質に応じ、担務区分をおく。一般職の職能区分、担務区分および担務は別表1の1および別表1の2のとおりとする。」と、別表1の1は、職能区分として「A級は担当業務について一応の基礎知識を有し、上司の概括的な監督、指導のもとに正確に業務を遂行しうる者およびそのつど上司の指示を受け、または既定の方式に従つて定型的反復的業務を確実に遂行しうる能力を有する者」、「B級は、担当業務について、相当高度もしくは困難な業務については上司の指導のもとに専門的基礎知識およびその応用力をもつて企画・立案・実施し、日常の一般的業務については上司から概括的指示を受けて正確に業務を遂行しうる能力を有する者」、「C級は、担当業務について高度の専門的知識または技能および実務経験を有し、高度もしくは困難な業務についてその総合力をもつて上司を補佐し、日常の一般的業務については時宜に応じた判断によつて処理し、またはみずから部下を指揮してその実施にあたる能力を有する者」とそれぞれ規定し、右規定一〇条、三六条には、昇進は昇進考課により行なわれるが、その考課の基礎としては経験年数および修学程度とを評価する旨規定している。

昭和四七年当時被申請人従業員約一五、〇〇〇人中一般従業員は約一三、〇〇〇人であり、うちC級は約四、〇〇〇人、B級は三、〇〇〇人余、その余はA級であり、大学卒で被申請人に入社した場合普通六、七年でA級からC級へ昇進するが、申請人は昭和四四年四月B級となつた。

六以上を総合して考えると、申請人は本件処分当時一般職B級になつたばかりであり、身分としては被申請人の一般職の中位であり、決して高いものではなく、一方担当業務については、一応PDとして一本立ちする一般職B級になり、担当番組が連続のドラマ番組であつたことよりみて、スタジオ座談的な番組担当者やA級PDに比べれば裁量権を幾分かは有する部類のPDであつたといえよう。

七本件処分に至る経緯

(一)  被申請人の主張六(一)の事実および同項(二)の事実中、申請人が昭和四四年一一月一六日以降出勤せず、同月二四日申請人名義の欠勤願を提出したこと、同項(三)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  〈証拠〉によれば次の事実が一応認められ、他に右認定を左右するに足る疎明は存しない。

(1)  右欠勤願により申請人が昭和四四年一一月一六日本件闘争に参加し、逮捕、勾留されたため出勤し得ないことが被申請人に判明し、次いで翌一二月九日ころ、申請人が本件闘争に参加し通称池上通の道路上において警備の警察官らに危害を加える目的をもつて多数の石塊を投げつける等の暴行を加えて警察官の職務の執行を妨害したとの容疑事実により兇器準備集合罪および公務執行妨害罪として同年一二月八日付で起訴されたことが、被申請人に判明した。

(2)  申請人は、昭和四四年度の組合中部支部名古屋放送分会の執行委員長であり、同年一一月一六日の佐藤首相の訪米は、日本が沖繩の本土復帰と引換えにベトナム参戦国への道を進み、アメリカのアジア侵略体制に加担することを決定づける日米首脳会談に臨むものであるとの認識から、反戦青年委員会の行動を支持し、佐藤首相の訪米を阻止すべく本件闘争に参加したものである。

八本件処分の適法性に関する判断

(一)  起訴休職処分の合理性の一般的根拠

(1)  一般に、労働者が刑事事件について起訴された場合、刑事裁判においては有罪判決が確定するまで無罪の推定を受けるものの、起訴された事件の大半が有罪となる我が国の刑事裁判の実情の下では、当該労働者は相当程度犯罪の嫌疑が客観化されているとの社会的評価を免れない。

従つて、当該労働者の企業内における地位、担当業務の内容、公訴事実の具体的内容、罪名および罰条の如何によつては、その者が現に職務を執行していることにより職場規律ないし秩序の維持に悪影響を及ぼし、企業の信用を失墜する場合が生じうるため、暫定的に当該労働者の就労を停止する必要性を生ずる。

(2)  また、右労働者は、起訴にともない原則としして公判期日に出頭する義務を負い、一定の事由があるときは勾留されることもあり勾留された場合はもとより、勾留されていない場合においても公判期日に出頭する際は、労務の提供をなしえない状態となり、仮に当該労働者が公判期日に出頭するため有給休暇を使用したとしても使用者としては、時季変更権の行使に重大な制約を受け、労働力の適正な配置を基礎として行われる企業活動の計画と施行とに障害をもたらす結果となることがある。

従つて、使用者は、労働者の確実な労務の提供が期待できない状態の継続する公判審理の期間中、暫定的に当該労働者の就労を停止する必要性を生ずる場合がある。

(二)(1)  そこで被申請人における起訴休暇制度につき検討するに、前記のとおり就業規則三九条一項は「職員が次が各号の一に該当するときは休職を命ずることがある。(1)刑事事件で起訴されたとき」と、四〇条一項は「職員の休職期間は次のとおりとする。(1)前条第一項第1号によるときはその事件が裁判所に係属中」とそれぞれ規定している。

右規定するところによれば、被申請人の職員が刑事事件について起訴された場合、当該職員を起訴休職処分に付するか否かは、被申請人の裁量に委ねられているといえる。

ところで、〈証拠〉によれば、就業規則六〇条により職員の懲戒は別に定めるところ(職員責任審査規程)により行なわれることになつていることが一応認められるかから、被申請人の起訴休職制度が懲戒処分でないことは明らかであるが、他方前記のとおり賃金規程一三条によれば、休職期間中基準賃金の四〇%が減額され(もつとも前掲疎甲第三号証によれば、同規程一三条三項は起訴休職処分により「減額された者が有罪とならなかつたときは減額分から刑事補償法による補償額を差し引いた額を追給する。」と規定されている。)、また同号証によれば同規程二一条一項によれば休職期間は職能給の年次加給の対象から除外されていることが一応認められること等に照らせば、起訴休職制度は被処分者に少なからぬ不利益を生じさせるものであることが推認できる。

以上の各事実を併せ考えると、起訴休職処分に関する被申請人の前記裁量も全くの自由裁量ではなく、一定の制約を受けるものというべきである。

〈証拠〉によれば、就業規則は右裁量の基準を何ら規定していないことが一応認められるが、右裁量は前記起訴休職制度の合理性の一般的根拠の範囲内においてなされるべきであり、また公訴事実が真実であるとき被処分者が受くべき懲戒処分による不利益と起訴休職処分による不利益との均衡をも失さないよう努める必要があある。何故ならば、起訴休職処分は被処分者が有罪判決が確定した場合少なくとも相当期間の停職またはこれに準ずる程度の処分がなされる可能性を予想してなされるのが通常であるからである。

また、就業規則は使用者が企業経営の必要上労働者の労務遂行に関する規律を確定すべく制定されたものであり、他方労働者は原則として就業時間外の企業外における行動の自由を有しているものであるから、右における労働者の行為につき起訴休職処分に付するには、就業時間内・企業内における行為に対するのに比べ慎重でなければならない

(2)  次に前記四〇条一項によれば、その文言上一度有効な起訴休職処分が発せられた場合その処分は刑事事件が裁判所に係属中有効に存続するが如きである。

しかしながら、起訴休職処分制度の合理性の一般的根拠および右処分が前記のとおり被処分者に対し少なからぬ不利益を生じさせるものであることを併せ考えると、一旦有効に起訴休職処分がなされた場合であつても、被処分者の処分発令後の事情変更、例えば、勾留中が者が保釈されたとか、刑事事件において訴因変更、罰条変更等により起訴事実およびその評価に変化が生じた場合等によつて起訴休職処分を存続さすべき合理性が喪失するに至る場合の生ずることがあることは当然考えられることである。そうとすると、このような場合にまで、前記就業規則四〇条一項により起訴休職処分の存続を認めることは制度の趣旨、目的を逸脱し、妥当とはいい難い。従つて同項は単に起訴休職処分の最長期間を定めたもので、前述のように起訴休職処分の存続の合理性が喪失した場合には、同処分の効力が当然消滅すると解するのが合目的的である。

(三)  以上の諸点を前提に本件処分の正当性を検討する。

(1)  被申請人の公共性

放送法一条は「(二号)放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。(三号)放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主々義の発達に資するようにすること。」と放送の政治的中立性および放送による民主々義の函養を規定しており、同法は「第二章日本放送協会」の章について被申請人の組織、業務、財務、番組基準等被申請人の運営に関する事項を規定し、その四四条三項は、「協会は、国内放送の放送番組の編集に当つては、左の各号の定めるところによらなければならない。(一)公安及び善良な風俗を害しないこと。(二)政治的に公平であること。(以下略。)」と規定し、同じく四六条は広告放送の禁止を、同三二条は受信料の徴収につきそれぞれ規定している。

他方第三章に「一般放送事業者」の章を設け、その五一条で右四四条三項等を準用している。

〈証拠〉によれば、被申請人の国内番組基準の前文は「日本放送協会は、全国民の基盤に立つ公共放送の機関として、何人からも干渉されず、不偏不党の立場を守つて、放送による言論と表現の自由を確保し、豊かでよい放送を行なうことによつて、公共の福祉の増進と文化の向上に最善を尽くさなければならない。(略)2基本的人権を尊重し、民主主義精神の徹底を図る。(略)5公共放送としての権威と品位を保ち、公衆の期待と要望にそう(略)」と、第六項は「(1略」2公安および公用をみだすような放送はしない。3暴力行為は、どのような場合にも是認しない。」と、それぞれ規定されていることが一応認められ、一方就業規則三条において「職員は、放送が公正不偏な立場に立つて国民文化の同上と健全な民主主義の育成に努め、国民に最大の効用と福祉とをもたらすべき使命負うものであることを自覚して、誠実にその職責を果さなければならない。」と規定していることは当事者間に争いがない。

また、〈証拠〉によれば、被申請人の昭和四六年四月三〇日当時における放送受信契約数は、全国で二二、八六八、七〇三件(世帯数に対する普及率は約82.1%であり、名古屋中央放送局管内では三、二三八、八九〇件(前同普及率は約88.8%)であつたことが一応認められる。

右に述べたように、放送法上において、被申請人は、公共性の強い放送事業においても、特に公共性の強い企業として位置ずけられ、それが被申請人の国内番組基準、就業規則にも反映されており、一般の企業とは異なつた側面を有している。

(2)  右の如き被申請人の公共性、政治的中立性を前提に、申請人の起訴罪名が兇器準備集合罪、公務執行妨害罪であつて決して軽微な事件ではないこと、前記のとおり申請人の身分はそれ程高いものとはいえないが、その職務は全く単純定型的業務ともいえず、一定の裁量権を有するものであること、申請人の担当番組は全国中継番組で思想的・精神的に未成熟な中学生を対象としていること、〈証拠〉によれば、本件闘争に対しマスコミは厳しい批判を加えており、その社会に与えた影響が大きかつたことが認められること、等を併せ考えれば、本件処分には前述した起訴休職処分合理性の一般的根拠(1)が存するかのようである。

しかしながら、

(イ) 申請人が逮捕・勾留され、かつ起訴されたことをマスコミが報道し道したこと、申請人の行為に対し視聴者から被申請人に対し抗議がなされたこと、および、申請人の就労を拒否するとの職場の意見の存することを認めるに足る疎明は存しない。むしろ申請人が担当した「中学生群像」の場合、担当PDの氏名は前記のとおり放送されておらず、また〈証拠〉によれば、被申請人内に申請人外二名を支える会が結成され、申請人の復職を求める同僚らの署名が四〇〇〇名をこえていることが一応認められる。

まして、申請人の本件行為は就労時間外かつ企業外で、企業の職務と全く無関係に行なわれたものであり、放送法に基づく国内番組基準、就業規則等の前記諸条項は原則として、申請人の就労時間内、企業内での行為を規律しているものと解すべきであるから、申請人の右行為が直ちに申請人の職務上の誠実性に対する評価を低減するものとはいえない。

以上の事実を総合すれば、申請人を就労させることにより職場秩序が破壊される虞れとか、被申請人の前記公共性、政治的中立性が害されることの虞れはいずれも危惧するほどのものでないと思われる。

(ロ) 〈証拠〉によれば、職員責任審査規程一七条において免職または停職事由につき規定しているが、その規定を検討すると、主として企業内における秩序違反行為を規定しており、企業外の行為に適用しうるものは僅かに同条七号および一四号であり、七号は「破廉恥罪を犯した場合」と規定していることが一応認められる。

一般に、破廉恥罪とは道徳的に非難すべき動機原因からなされる犯罪を指すものと解され、申請人が訴追を受けた行為のように政治的動機から敢行されたいわゆる確信犯ともみられるべきものは破廉恥罪に含まれないと解されている。

また、〈証拠〉によれば、職員責任審査規程一七条一四号は、「前各号のほか、本則第六〇条に該当し、その情が著しく重い場合。」と、就業規則六〇条は、「職員が次の各号の一に該当するときは、別に定めるところにより懲戒する。(1)この規則またはこの規則に基づいて作成される諸規定に違反したとき。(2)職務上の義務に違反し、または職務を怠つたとき。(3)職員としてふさわしくない行為のあつたとき。」と、それぞれ規定していることが一応認められ、右就業規則六〇条で本件処分との関連で問題となるのは同条三号である。

同号は、職員の企業内外における行動によつて被申請人の社会的体面(企業者としての社会的地位、信用、名誉等を包含したもの)が毀損されることを防止することを主な目的として規定されているものと推測される。

しかしながら、労働者は、雇用契約の締結により使用者に対し労務提供義務を負担するものとはいえ、原則として右義務の履行過程においてのみ企業秩序の支配に服するものであつて、雇用契約およびこれに基づく労務の提供を離れて、使用者の一般的な支配に服するものではなく、前記のとおり労働者は就業時間外、企業外において原則として行動の自由を有しており、就業規則も使用者が企業経営の必要上労働者の労務遂行に関する規律を確定すべく制定されたものである。

従つて、「職員にふさわしくない行為」とは、客観的に見て被申請人の秩序ないし規律の維持または企業の向上と相容れない程度のものでこれによつて被申請人の体面が毀損され、被申請人にとつて最早当該労働者との間の雇用関係の継続を期待しえないような行為を指すものと解されるところ、前記(イ)の認定事実に照らし、申請人の前記行為が今直ちに右就業規則六〇条三号に該当すると速断することはできない。

従つて、仮に申請人が本件起訴により有罪判決を受けたとしても、これによつて、被申請人にとつて最早申請人との間の雇用関係の継続を期待しないほど被申請人の体面が毀損されたと評価される場合でない限り、申請人は被申請人から免職ないし停職処分に付されるおそれは少いものということができる。

(ハ) 以上説示のように本件起訴休職処分には結局前記合理性の一般的根拠(1)は存在しないと解すべきである。

(3)  次に〈証拠〉によれば、申請人は昭和四四年一一月一六日から保釈された翌年三月二七日までは身柄を拘束されていたため、被申請人に対し労務の提供をなすことは不可能であつたが、同月三一日に被申請人に出社したこと、申請人の刑事裁判の第二回公判は、昭和四五年六月第一回公判が開かれてから約九ケ月を経た昭和四六年三月二五日に開かれていることが一応認められる。

右事実に照らせば、右公判期日はかなりの期間を置いて順次開かれていくものであり、その出頭のための欠勤は有給休暇をもつて十分まかなえ、公判進行の予測もある程度可能であることが推認しうる。

他方、申請人の職務で重要なPD業務は、前記のとおり脚本の打合わせから番組制作まで約一ケ月を要し、その間スケジュールを立てて行なうものであるから、右公判期日指定にあたり職務多忙の時期を避けるけるよう裁判所に要望することも可能である。そして申請人が右のような事情のもとに指定された公判期日に出頭するために有給休暇を請求した場合に、被申請人が時委変更権を行使しなければならぬ必要性は殆んど考えられない。

従つて、保釈後の申請人の就労が、同人を休職に付さなければならない程不安定であるとは認められない。

(4)  しかして、申請人は本件処分を受けた当時勾留中であり、しかも何時身柄が釈放されるか不確実であつたことが窺えるから、被申請人に対し労務を提供しえない状態にあつたことはいうまでもない。従つて、本件処分は、すくなくとも処分発令時点においては前記起訴休職制度の合理性の一般的根拠(2)にかんがみ、適法であつたというべきである。

しかしながら、申請人が保釈されて被申請人に出社した昭和四五年三月三一日以降、申請人は被申請人に対し労務を提供しえ、その提供の状況も前記のとおり不安定ではなかつたのであるから、右同日以降本件処分はその存続の合理性を喪失し、同日をもつてその効力が消滅したものと解すべきであることは、前記八(二)(2)に説示した理由よりして明らかである。

もつとも、〈証拠〉によれば、就業規則四一条は「第三九条第一項第一号または第二号により休職を命じた職員については、休職の事由が消滅したときは、復職を命ずることがある。」と規定されていることが一応認められる。

右規定によれば、復職を命ずるか否かは被申請人の裁量に任されているようにも解されるが、前記起訴休職処分の合理性の一般的根拠および右処分が被処分者に対し少なからぬ不利益を生じさせるものであることを考慮するならば、右規定中起訴休職にかかる部分は休職の事由が消滅したとき、原則として復職させるとの趣旨を注意的に規定したにすぎないと解すべきであり、従つて、右復職命令がないからといつて、起訴休職事由が消滅した職員の復職を拒否することはできず、右職員は右復職命令の有無にかかわらず復職したものと取り扱われるものと解するのが相当である。

しかるに、申請人に復職を命じえない特段の事情の存することについては疎明がなく、他方申請人は、昭和四五年三月三一日以降被申請人に対し労務の提供を申し出ていることは前説示のとおりであり、それにもかゝわらず、被申請人は何ら正当な理由なくこれを拒否しているのであるから、申請人は同日以降復職したものとして取り扱われるべきであり、また同日以降申請人には雇用契約上の不履行は存しないといえる。従つて、申請人は、被申請人に対し、同日以降就業規則その他の定めるところに従い算出された賃金および同年以降右賃金を基礎として算出された夏委・年末の各一時金をそれぞれ所定の日(被申請人の賃金支払日が毎月二〇日であることは当事者間に争いがない。)に支払うよう請求すべき権利を有するものと認められる。

九就労請求権について

雇用契約は、労働者の提供する労務と使用者の支払う報酬とを対価関係にかゝらせる双務契約であつて、労働者の労務提供は義務であつて権利ではないから、個別的雇用契約あるいは労働協約等に特別の定めがある場合は労務の性質上特別の合理的利益を有する場合を除いて、労働者に就労請求権はないものと解すべきであり、申請人については右各場合に該当する事実を認めるに足りる疎明は存しないので右権利は認めえず、右に反する申請人の主張は採用できない。

一〇(一)  別紙一1、3の事実は当事者間に争いがないので昭和四五年三月三一日以降昭和四八年三月三一日までの基準賃金未払分は一、一七七、九二〇円を下らないこと、右期間の各一時金未払分が一、〇〇一、四九〇円を下らないこと(被申請人の一時金の支給対象期間についての疎明が存しないため五年度の一時金は確定しえない。)、昭和四八年三月の基準賃金未払分は三七、六八〇円であることがそれぞれ認められ、申請人の昭和四四年四月から九月までの月平均残業時間数は36.75時間であつたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、昭和四五年ないし昭和四七年の各基本給が申請人主張のとおりであることが一応認められ、〈証拠〉によれば賃金規定三一条、三二条によれば被申請人の残業手当は三〇分を単位としているので算式の分母が三一二であることが一応認められるが、申請人は一時間を単位としたため分母を右の半分の一五六としているが、申請人主張の算式は右規程三一条、三二条による算式と結局同一であることが認められ、従つて、申請人の昭和四五年四月から昭和四八年三月三一日までの残業手当未払分は同人主張のとおり八六七、四四七円であるというべきである。そうすると、申請人の昭和四五年三月三一日から昭和四八年三月三一日までの未払賃金総額は、三、〇四六、八五七円を下らないこと、同年四月一日以降の未払賃金は月額三七、六八〇円を下らないことが一応認められる。

(二)  申請人が妻と子供一人を扶養していることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、申請人は本件処分以降基準賃金の六割しか支給されておらず、現在手取月額約四三、〇〇〇円であり、昭和四六年当時で家計費が月約八〇、〇〇〇円であり、しかも申請人は賃金を唯一の生活の資とする労働者で、被申請人からの賃金以外に収入のないことが一応認められる。従つて、申請人の家計にかなりの赤字を生じていることは推認しうるが、前記未払賃金全額の仮払いを今直ちに認めなければならない程の必要性を認めるに足る疎明は存しない。

右のような諸般の事情を考慮すると、申請人の仮払い申請中一、五〇〇、〇〇〇円および昭和四八年四月一日以降毎月二〇日限り三七、六八〇円の割合による金員の仮払いの必要性を認めるのが相当である。

なお申請人は昭和四八年四月以降毎年六月、一二月に各支給さるべき夏季一時金の各仮払いをも求めているが、右は現在その支給金額、支給時期が確定していない以上右申請は結局被申請人の任意の履行を期待するものであり、本判決により申請人が本件処分の付着しない労働契約上の権利を有することが仮に定められるならば当然これに包含されているものと解することができるから、重ねて主文においてこれを命ずる必要はない。

一一されば、申請人の本件仮処分申請中、申請人が被申請人に対し昭和四四年一二月八日付休職処分の付着しない労働契約上がの権利を有することを仮に定め、被申請人が申請人に対し一、五〇〇、〇〇〇円および昭和四八年四月一日以降毎月二〇日限り三七、六八〇円の割合による金員の仮払いを求める部分は理由があるので認容し、その余は失当として却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(小沢博 渕上勤 植村立郎)

別紙一〈省略〉

別紙二

職務基準(職務内容)

権限事項

決定権者

一、放送番組の企面提案

(1) 番組の企画に関する重点事項の設定

重点事項の決定

部長

(2) 番組の年間企画案の作成提出

年間企画案の決定

(3) 定時番組、特別番組の企画提案

企画案の決定

(4) 再放送の提案

再放送の提案の決定

二、放送番組の制作実施

(1) 文芸、音楽作成の委嘱

作品委嘱の決定

(2) 文芸、音楽作品の選定

作品の決定

(3) 台本の作成

台本の決定

副部長

(4) 出演者の交渉

出演者の決定

部長

(5) 番組通知票の作成、編成担当部課への回付

番組通知内容の決定

副部長

(6) 番組広報資料の作成、番組広報部課への提出

番組広報担当部課への提出内容の決定

(7) 編成担当部課ヘスタジオ等の申込み

(8) 制作スケジュールの作成

制作スケジュールの決定

副部長

(9) 制作関係者等の依頼

録音業務、録画業務、撮影業務、アナウンサー、劇団、楽団等、フイルムテロップの使用、フイルムの抜きやき、フイルム編集室の使用、テロップパターンの作成、美粧衣裳道具消え物等の依頼の決定

(10) 演出準備

演出内容の決定

(11) テスト

(12) 効果

(13) 美術進行

(14) 収録(ナマ放送の場合は「放送の実施」とし、(20)「実施後の検討」に続く。)

(録音ロケ取材実施の場合は次の(イ)―(ホ)の制作過程を経る)

(イ) 収録場所の選定

収録場所の決定、現地局への協力依頼の決定

副部長

(ロ) 収録プラン、ロケコンテの作

(ハ) 収録準備

(ニ) 録音、ロケーション

(ホ) 収録ロケ実施後の現地処理

現地出演者に対する出演料、放送記念品、

協力謝礼、電源使用料支払等の現地処理の決定

副部長

(15) 録音、録音テープ、フイルム等の編集

(16) 試聴、試写

編集内容の決定

部長

(17) 録音、録画テープ等の運行、担当部課への回付

(18) 放送実施(完プロでない場合)

(19) 道具類の撤収立ち合い、長期使用道具類の保管についての業者への指示

(20) 実施後の検討

(21) 番組予算支出状況の管理

関係番組単価管理計画の決定

副部長

(22) 著作権の使用報告

文芸作品使用料の請求の決定、

音楽作品使用料の請求の決定

(23) 放送番組実施の記録

(24) 事後処理(聴視者参加の場合は次の(イ)―(ニ)を加える。)

投書等に対する回答の決定

部長

(イ) 作品及び出演者の応募要項の作成

応募要項の決定

(ロ) 使用作品の募集、選定、補作

使用作品の決定

(ハ) 出演者の募集

応募出演者の決定、放送記念品

旅費等の請求の決定

副部長

(ニ) 応募採用作品等に対する謝礼謝礼の請求

(中継放送番組の場合は次の(イ)―(ハ)を加える。)

謝礼の請求の決定

(イ) 公演、主催者、中継会場との交渉

中継場所の決定、現地局への協力依頼の決定

部長

(ロ) 中継業務の依頼

中継業務の依頼の決定

副部長

(ハ) 中継準備

(フイルム番組の場合は次の(イ)―(ハ)を加える。)

(イ) フイルム作品の試写、検討

(ロ) 外国映画作品は日本語版台本(吹き替え、字幕別)の委嘱

台本委嘱の決定

台本委嘱料の請求の決定

(ハ) 日本語版台本の作成

日本語版台本の決定

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